研究課題
基盤研究(C)
われわれは、これまでの研究により、らん藻および植物葉緑体に存在するCnfU蛋白質が2Fe-2S型の鉄硫黄クラスターを保持し、そのクラスターを基質蛋白質であるアポ型のferredoxin分子へとin vitroにおいて効率よく転移することができる、すなわち鉄硫黄クラスター生合成過程において、Scaffold protein(足場蛋白質)として中心的な役割を果たすことを示してきた。さらに、われわれが既に実験に着手しているIscA蛋白質も、やはりScaffold proteinのひとつと考えられており鉄硫黄クラスターを一過的にアセンブリーすることができることが分かっている。本研究では、これらの蛋白質の生化学的・物理化学的特性や作用機構、立体構造の解明を目指すと同時に、らん藻や植物葉緑体の光化学系複合体の構築において鉄・硫黄クラスター生合成系がいかに関与しているのか、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。常温性らん藻SynechocystisPCC6803のゲノム情報に加えて、好熱性らん藻のゲノム配列も明らかになっている。また、植物においてもシロイヌナズナの全ゲノム情報が明らかになっている。これらの情報をもとに、酸素発生型光合成を営む細胞中での鉄硫黄クラスター生合成のキーとなるScaffold蛋白質の大量発現系を構築、構造解析に適した発現および精製条件の検討を進め、以下の成果を得た。(1)らん藻CnfUおよびIscAに関しては、その立体構造の解明がScaffold proteinとしての反応メカニズムに直接的に結びつくと考え、好熱性らん藻由来の蛋白質の発現系を構築し、精製をおこなった。精製IscA蛋白質は足場上に[2Fe-2S]型クラスターを比較的安定に保持していた。そこでこの標品を結晶化し、2.6Å分解能での結晶構造を決定することに成功した。(2)また、葉緑体に存在するCnfUに関しては、その葉緑体内での存在様式に加えて、この蛋白質を欠損するシロイヌナズナ変異体が著しい生育阻害を示し、実際にその葉緑体中で光合成電子伝達に必須なフェレドキシン([2Fe-2S]クラスターを持つ)および光化学系I([4Fe-4S]クラスターを持つ)の生合成に欠陥があることを示した。また、そのリコンビナント蛋白質を用いて、[2Fe-2S]クラスターをホモダイマー間に結合し、クラスター転移能を有する事を示した。加えて結晶化をおこない、アポ型の1.6Åの分解能の結晶構造、および配位した鉄硫黄クラスターの構造情報を得ることに成功した。
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