カドヘリンはカルシウム依存性の細胞間接着分子で、組織構造の形成あるいは維持において中心的な働きをしている。従って、カドヘリンの働きを制御することは、細胞間の接着をコントロールすることになる。また、その破綻は、癌細胞でしばしば見られる浸潤性の獲得と転移へとつながる。細胞はいくつかの異なるレベルでカドヘリンの働きを制御している。我々はこれまで、カドヘリンの制御はカドヘリン自身が直接制御されるばかりでなく、アクチン骨格へリンクさせるβ-カテニンやα-カテニン、またp120などによっても間接的に制御されることを明らかにしてきた。さて、カドヘリンも他のタンパク質と同じように、小胞体で合成されゴルジ体を通過し、細胞表面に輸送される。また、極性細胞ではE-カドヘリンは側底部と呼ばれる細胞同士が接着している部位に存在していることが分かっている。今回、偶然にある変異カドヘリンの細胞表面への輸送が阻害されることを見い出した。カドヘリンは細胞表面に輸送されて機能する分子であるので、その輸送が阻害する機構が存在すると言うことは、この輸送の制御もカドヘリン活性の制御機構のひとつになると考えた。そこで一連の変異カドヘリンをMDCKという細胞という極性を持った上皮細胞の代表的細胞で発現させ、その細胞内存在部位を調べた。その結果、β-カテニン結合部位を欠損したE-カドヘリン変異体が細胞表面に輸送されず、核周辺に蓄積することを発見した。そこで、このβ-カテニンが結合しないために細胞内で留まっている変異カドヘリン発現細胞株を中心に、特定部位を削ったり、異なるアミノ酸に置換した変異株を作製し、それを発現させてその局在や極性を調べることによって、E-カドヘリンの輸送阻止のメカニズムを解明しようとした。その結果、膜貫通部位に隣接した領域が輸送の阻止に関わることが判明し、さらにアミノ酸残基の同定にも成功した。
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