ラットの卵胞壁破裂に関与するマトリックスメタロプロテアーゼ-23(MMP-23)は未分化な卵巣顆粒膜細胞において高発現しており、その後卵胞刺激ホルモン(FSH)の作用により分化成熟する過程でMMP-23の発現が抑制される。初代培養系ラット顆粒膜細胞におけるMMP-23の発現抑制には、細胞内で亢進されるサイクリックAMP(cAMP)産生を介していることを以前に報告した。今回、cAMPで活性化されるAキナーゼおよびAktに対するsiRNAを顆粒膜細胞に導入してそれぞれのキナーゼの発現を抑えたところ、FSHによるMMP-23の転写抑制作用が阻害されることが確認された。これとは逆に、排卵過程でアポトーシス様の細胞変性をおこした顆粒膜細胞では、新たなタンパク合成を伴いMMP-23の発現が誘導される。そこでラットMMP-23の遺伝子を単離し、転写開始点より1.5kbp上流の配列を解析したところ、顆粒膜細胞において上記のMMP-23の発現調節に必要な領域が含まれることが示唆された。現在、詳細な発現調節領域の同定を実施している。 つぎに卵巣におけるMMP-23の生理的な機能を検索するために、MMP-23の触媒領域をベイトにしてヒト卵巣cDNAライブラリーを酵母two hybridスクリーニングした。その結果、細胞外マトリックス(ECM)であるフィブロネクチン、フィブリリンのほかに潜在型TGF-β結合タンパク(LTBP)が単離され、MMP-23は、フィブリリンおよびLTBPのEGF様領域を介して会合することが明らかとなった。LTBPはフィブリリンやフィブロネクチンと結合することにより、成熟型TGF-βを潜在型として留めている。TGF-βは卵胞形成を制御する重要な因子であり、その機能を発揮するためには、LTBP自身およびLTBPが結合しているECMが切断され遊離される必要がある。今回の結果から、MMP-23がTGF-βの活性化に関与し、顆粒膜細胞の分化を調節する可能性が新たに考えられた。
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