染色体クロマチン構造の最小単位となるヌクレオソーム構成状態の変化、すなわちDNAのメチル化、構成ヒストンの入れ替わり、及びヒストン修飾は、転写や修復、複製といった染色体機能に関与するタンパク質群の何をどこに作用させるかを決定する際の重要な目印となる。さらにこのクロマチン上の目印は、染色体が核内に詰め込まれる際の高次構造を規定する上でも重要と考えられている。このようなクロマチン目印の情報を含むゲノム情報は総括してエピゲノム情報と呼ばれるが、初期の胚発生過程ではこのエピゲノム情報が劇的に変化する。そこで胚発生をmimicできるマウスES細胞のin vitro分化系を用いてOct-3/4遺伝子領域を含む約100kbのクロマチンの構造状態の変化を調べている。Oct-3/4遺伝子の発現は、分化の全能性をもった細胞に限局しており、その発現活性化は体細胞核移植の際の核の初期化の指標とされている。従って分化の全能性の獲得、逆にまた分化の全能性の喪失の際に、どのような染色体のクロマチン高次構造の変化を伴いOct-3/4遺伝子の発現がOn/Offされるのかを解明することが本研究の目的である。本年度はES細胞から高率にβIII-tubulin陽性神経細胞に分化誘導する系を確立し、Oct-3/4遺伝子領域クロマチンのde novoのDNAメチル化進行のタイミングを調べた。その結果、ES細胞の分化誘導後6日目以降にde novo DNAメチル化が検出された。このタイミングは胚の着床後の時期に相当する。またES細胞からは様々な種類の細胞系統が分化誘導されるが、特に神経系への分化誘導の割合が高くなるほどde novoのDNAメチル化進行のタイミングが遅延した。このタイミングのずれは2日程度であり、post mitotic neuronとなった状態では高率にDNAメチル化がおこっていた。3D-FISHによりクロマチン高次構造を検出し、未分化なES細胞と、post mitotic neuronの細胞における差異を検討しているが、未分化状態に比べ分化した細胞ではOct-3/4遺伝子領域を含むクロマチンがより凝縮していることがわかった。
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