研究概要 |
生体内で不要または有害となった細胞にはアポトーシスが誘導され,このような細胞は食細胞による貪食により生体から排除され,個体の恒常性が保たれている。本年度は,昨年度に得た,精子形成細胞貪食の情報経路に関する知見,およびインフルエンザウイルス排除に関する知見に基づいて,食細胞による標的取り込みの細胞内情報伝達機構と,動物実験による貪食反応の病態生理学的意義とを解析した。 1)SR-BIを介したセルトリ細胞による精子形成貪食反応機構と意義 アポトーシス細胞を認識したセルトリ細胞内では,MAPキナーゼp38およびERKI/IIを介する情報経路がSR-BIを介して活性化した。両経路の同時抑制により,セルトリ細胞のアポトーシス細胞およびホスファチジルセリン取込のどちらも顕著に抑制された。これより,SR-BIは細胞内情報伝達を導く貪食受容体であると示され,SR-BIを介する貪食反応にはMAPキナーゼ活性が必要と考えられた。 2)マウスへのインフルエンザウイルス感染時のToll様受容体4(TLR-4)の病態生理学的役割 野生型マウスおよびTLR-4欠損マウスにインフルエンザウイルスを感染させ,病態変化と肺組織内での感染アポトーシス細胞存在および食細胞による貪食を飼育日数を追って解析した。その結果,TLR-4の欠損により,ウイルス感染後の生存率が大きく低下することが判明した。感染マウスの肺組織では,炎症程度およびアポトーシス細胞が出現し,これらにTLR-4欠損による違いはなかった。しかし,感染後の炎症が最大に達した後,TLR-4欠損マウス肺では野生型と比較して,アポトーシス細胞の消失程度が顕著に大きいこと,アポトーシス細胞の貪食される程度が大きいこと,これらのアポトーシス細胞の多くは好中球であるとわかった。これより,インフルエンザウイルスに対する防御にTLR-4が働くと示され,TLR-4は感染後期で好中球排除に抑制的に働くと予測される。
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