1.糖鎖構造: pro-MMP-9には3つのN-結合型糖鎖と多数のO-結合型糖鎖が存在することがすでに報告されている。N-結合型糖鎖切断酵素を用いてpro-MMP-9のN-結合型糖鎖を除去し、ガレクチン-8との結合性を調べた結果、すべてのN-結合型糖鎖を除去してもガレクチン-8との結合性は変化しないことから、ガレクチン-8はO-結合型糖鎖を介してpro-MMP-9と結合する可能性が高いことが示された。しかし、O-glycanase + sialidase A+β(1-4)galactosidaseによりO-結合型糖鎖を除去したpro-MMP-9もガレクチン-8と結合したことから、ガレクチン-8はpro-MMP-9のN-およびO-結合型糖鎖の両方と結合する可能性が高い。 2.活性化促進メカニズム: pro-MMP-9がガレクチン-8のN-末端側CRDに高い親和性を示すこと、site-directed mutagenesisでいずれかのCRDを不活性化したミュータントはpro-MMP-9活性化促進効果を示さないことをすでに報告した。前述のガレクチン-8ミュータントを利用して、MMP-3がどちらのCRDと結合するかを調べた結果、pro-MMP-9とは異なり両方のCRDに対してほぼ同等の親和性を示すことが分かった。また、GST-tagを有するガレクチン-8と比較してtag-freeのガレクチン-8はpro-MMP-9活性化促進能が低下することから、GST-tagを介したガレクチン-8の2量体形成が活性化に重要であることが示された。GST-tagを介したガレクチン-8の2量体形成は、分子篩クロマトグラフィーにより確認された。 3.生理的、病理的役割:発現誘導が可能なガレクチン-8高発現株を得る目的で、HT-1080細胞にガレクチン-8遺伝子を導入した(Tet-Off System)細胞株を樹立した。しかし、これらの細胞株ではガレクチン-8遺伝子が恒常的に発現しており、誘導性の発現は観察されなかった。また、親株と比較して、ガレクチン-8遺伝子を恒常的に発現している細胞株の形態や増殖速度に明らかな変化は認められなかった。本研究は、細胞外に存在するガレクチン-8の作用を対象としていることから、分泌シグナルを導入したガレクチン-8発現ベクターを使用する等の工夫が必要と考えられる。
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