癌細胞は、治療途中に投与した抗癌剤に対して耐性になると同時に、治療には用いていない抗癌剤、しかも作用機構や構造が異なる薬剤に対しても耐性になることが知られている。これまで多剤耐性獲得機構としてP-糖蛋白質やMRPなどの薬物輸送ポンプの過剰発現が癌細胞の抗癌剤耐性に密接に関連していることが明らかにされているが、細胞内酸性コンパートメントであるエンドソーム・リソソームへの抗癌剤の隔離が癌細胞の耐性獲得の一因であることが知られている。最近、酵母のチミジン輸送欠損株を相補するマウスヌクレオシドトランスポーター(LAPTM4α)が同定された。この蛋白質は4回膜貫通蛋白質でエンドソーム・リソソーム膜に局在し、酵母の薬物感受性株に発現させるとこれまで報告されていたP-糖蛋白質やMRPと同様な多剤耐性を示すことが判明した。しかしながら、LAPTM4αが実際に動物細胞でこのような機能を発揮しているのかについては未だ明らかにされていない。それ故、本研究はLAPTM4αの欠損マウスを作成し、これまでP-糖蛋白質およびMRPでは説明出来なかった新たな多剤耐性獲得の分子機構の解明を目的とした。 申請者らは、LAPTM4αの遺伝子ノックアウトマウスの作成に成功し、ホモマウスにおける遺伝子レベル(RT-PCR)およびタンパク質レベル(特異的抗体の作成により)でのLAPTM4α欠損を証明した。形態学的観察の結果、正常マウスとLAPTM4αノックアウトマウス間において各種組織レベルおよびオルガネラレベルにおける形態学的差は見られなかった。さらに、正常マウスとの比較においてLAPTM4αノックアウトマウスにおけるリソソームの性質に大きな違いは観察されなかったが、LAPTM4αノックアウトマウスの繊維芽細胞にリソソームの若干の肥大化が観察され、この現象は、LAPTM4αをHeLa細胞に過剰発現させた時にも引き起こされた。それ故、これらの結果はLAPTM4αがリソソーム形成に関与することを示唆する。
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