CK2(カゼインキナーゼ2)は個体の生存と増殖に必須となる酵素の一つで、触媒サブユニットであるalpha(αまたはα')と制御サブユニットbeta(β)がヘテロ4量体を形成するとholoenzymeとして最大活性を示す。本酵素の生理機能の詳細は明らかでなかったが、これまでに申請者は、家族性大腸腺腫症(FAP)の原因遺伝子かつ癌抑制遺伝子でもあるAPCの遺伝子産物が、細胞周期に依存して相互作用する細胞内タンパクとしてCK2を同定し(PNAS 2002)、さらにCK2活性は癌疾患で欠損する「APCタンパクC端領域」によって抑制されることを見出した。細胞周期進行に関与する事が示唆されたこれらの成果を踏まえて、本研究では細胞周期進行におけるCK2活性変動を解析した。その結果、CK2は、これまで考えられていたような恒常的に活性化された酵素ではなく、細胞周期にともない新たなholoenzymeを形成させ、大きく活性と局在を変動させる興味深い挙動を示す酵素であることを明らかにした。同時に、細胞周期特異的な標的分子として、翻訳開始因子のひとつeIF5(eukaryotic translation initiation factor 5)が、細胞周期特異的にCK2と相互作用し、リン酸化されることを見出した。さらに、eIF5のリン酸化が、eIF5自体の翻訳開始因子としての機能および細胞周期進行に必須であることがわかった。CK2によるeIF5リン酸化部位をMass Spectrometryにより同定したので、eIF5リン酸化部位変異体を作成し、このeIF5のCK2によるリン酸化が、翻訳開始・細胞周期進行・細胞増殖に必須であることことを明らかにした(PNAS 2005)。このとき、ある種のcyclin/CDKタンパクレベルも低下した。これらの成果に基づく結論として、CK2は細胞周期進行の初期段階でeIF5を介して、厳密にコントロールされた細胞周期進行に関与すると考えられる。さらに、細胞周期の進行に伴いCK2が核内へ移行することを見出したので、今後は核内CK2新規ターゲット分子を明らかにすること、また細胞周期特異的なCK2複合体構成分子を同定することが、課題である。CK2が厳密な細胞周期の制御、特に核機能に関与するメカニズムを明らかに出来ると期待される。
|