我々は腫瘍壊死因子(TNF)により引き起こされる細胞死の誘導機構の解析をおこない、このシステムにカスパーゼやJNKが重要な役割を担うことを明らかにした。さらにこの制御機構の中核に細胞内で産生された活性酸素種が関与することを明らかにした。TNFにより細胞内で産生された活性酸素種はJNKの脱リン酸化をになうMAPキナーゼホスファターゼ(MKP)の活性中心のシステイン残基の酸化修飾を誘導することにより持続的なJNKの活性化を引き起こす。活性化されたJNKはユビキチンリガーゼItchをリン酸化し、その活性を上昇させ、この結果としてカスパーゼの抑制タンパク質であるcFLIPの分解が誘導され、最終的にカスパーゼの活性化により細胞死が惹起されることになる。以上のメカニズムを培養細胞系を用いた細胞生物学的実験と、試験管内における生化学的実験により明らかにした。一方、TNFにより引き起こされる細胞死は特定の条件下にのみ見られる現象であり、一般の野生型細胞株では細胞死は誘導されず、TNFはむしろ細胞増殖因子として機能する。TNFによる細胞死から細胞を防御する保護効果の本体はIKKbを介して活性化されるNF-kB依存性の遺伝子発現産物であると考えられるが、その詳細については不明であった。われわれはIKKb・NF-kBシステムが細胞内生体エネルギーシステムを破綻から防御して、最終的に活性酸素種の産生を抑制することにより細胞を保護していることを明らかにした。このようなレドックス制御システムが細胞の生と死の制御機構において主要な役割を担うことになる。さらにモデルマウスをもしいた実験により、炎症に伴う肝障害や、肝臓の発癌に活性酸素の産生と、これにともなうMKPの酸化修飾やJNKの活性化が密接に関連することを明らかにした。この研究成果をもとに、酸化ストレスの発生を抑制し、さらに組織を防御する方法を開発することにより、酸化ストレスが関与するさまざまな疾患の治療や予防法の開発のための基礎原理を確立したいと考えている。
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