研究概要 |
アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)および分枝アミノ酸アミノ基転移酵素(BCAT)におけるプロトン移動過程の解析を行った。AATでは特に炭素数4個(C4)基質と炭素数5個(C5)基質の反応の違いを解析した。C4基質とのMichaelis複合体では1個のみのプロトンが基質アミノ基と補酵素ピリドキサールリン酸(PLP)とLys258のシッフ塩基の形成するイミノ基によって共有され,溶媒のpHの影響を受けないのに対し,C5基質との反応ではアミノ基とイミノ基が独立してプロトン化・脱プロトン化を受けることが示された。一方,反応が1段階進んだ外アルジミン複合体においてはC4基質でもC5基質でも同様にアミノ基とイミノ基による1個のプロトンの共有が起こっていた。C4基質では基質結合時に起こるAATのコンフォメーション変化がC5基質では基質結合時には起こらず,Michaelis複合体から外アルジミン複合体への転換時に起こることが示された。。この過程においては酵素の活性部位の入口にある疎水性残基の相互作用が重要であることが判明した。また,AATにおけるプロトン移動のおおもととなる駆動力がPLP-Lys258シッフ塩基の歪みに起因することをGaussian03を用いた計算によって明らかにした。BCATについては基質結合後,基質アミノ酸のアミノ基のプロトンがPLPのリン酸基とカルボキシル基を橋渡しするプロトンとして奪われることによって基質アミノ酸のアミノ基が活性化されることを,構造解析と速度論的解析によって示した。次年度は更に他のトレオニン合成酵素等について同様の構造論・速度論・理論的解析を継続する予定である。
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