研究概要 |
アスパラギン酸アミノ基転移酵素とC5基質の反応について速度論的・構造化学的に詳細に調べた.その結果,C5基質がAATに非共有的に結合したミハエリス複合体の状態ではAATは開いた構造のままであり,ミハエリス複合体から外アルジミン複合体に移る過程において開いた構造から閉じた構造へのコンホメーション変化が起こり,この過程でミハエリス複合体では許されていた多様なプロトン化状態が2種のみの状態に移ることが判明した.また,このプロトン移動の駆動力となる構造的要因も明らかになった.また,この解析の結果,C5基質では触媒反応の途中において酵素の大きな構造変化が起こり,その際に基質もコンホメーションを変化するという非古典的な新たな機構が発見された. また,ピリドキサール酵素のプロトン移動過程において重要な意義を有するピリドキサールリン酸のシッフ塩基の歪みについて量子化学的計算を行い,その歪みの本質を明らかにした. これらの成果の応用として,ピリドキサール酵素に関連した反応機構を有する銅アミン酸化酵素について重水素化した基質を用いての遷移相速度論的解析を行った.2-フェニルエチルアミンの場合は温度依存的で小さな同位体効果が,チラミンの場合は温度非依存的で大きな同位体効果が観測され,後者では量子力学的なトンネル効果によって触媒反応が進行しているがことが判明した.X線結晶解析により,2-フェニルエチルアミンとチラミンの結合様式が異なり,チラミンにおいてはプロトン転移のエネルギー障壁が薄くなっていることがトンネル効果を可能にしていることが分かった.銅アミン酸化酵素の還元的半反応におけるAsp298の役割についても解析した.基質からのプロトン引き抜きの立体特異性はAsp298と基質の立体的相対位置によって決まるのではなく,基質とトーパキノンのシッフ塩基のキノン環に対して垂直な炭素-水素結合が優先的に切断されるという,コンフォメーションに基づく機構によって決まっていることが明らかになった.
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