前年度までにザリガニの第六腹部神経節に豊富に存在することが示唆されたオルコキニンとCCAPの発現について、蛍光二重染色in situ hybridization法を行い解析したところ、両者は排他的な発現パターンを示すことがわかった。これらの発現細胞の細胞体の一部は、お互いに密接に接触して存在している部位のあることが判明し、両者の産生細胞が相互に直接影響を及ぼしていることが示唆された。またタキキニン関連ペプチドとCCAPの発現パターンについても解析を行い、両者も排他的な関係であることを確認した。さらに前年度に引き続きザリガニの第六腹部神経節の凍結切片を用いたMALDI-TOF質量分析を行って神経ペプチドを探索したところ、分子量1270のペプチドが存在することが判明した。この1270の分子量を指標にして、第六神経節抽出物から精製を行い、Q-TofMS分析を行った結果、-DHVF(L/I)RFamideの配列を有するペプチドであると推定された。この部分アミノ酸配列情報からプライマーを設計し、第六腹部神経節ライブラリーよりその前駆体蛋白に対するcDNAのクローニングを試みた。得られたポジティブクローンのDNA配列解析を順次行った結果、目的としたペプチドの前駆体蛋白に対するcDNAクローンを得ることが出来た。その推定アミノ酸配列の解析から、相当する前駆体蛋白は全長101アミノ酸残基から成り、C末端部に予想されたペプチドを1コピーのみ含む構造であることが判った。その近傍の配列は-KRQDLDHVFLRFGRSQ(Stop)であり、質量分析の結果とあわせて、実際の成熟ペプチドの構造はN末端部がピログルタミル化、C末端部がアミド化されたpEDLDHVFLRFamideであると考えられた。これは多くの昆虫でその存在が示唆されているミオサプレッシンと類似の構造であった。
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