研究概要 |
dGC(GAA)GCおよびdGC(GGA)GCのDNAミニヘアピン分子について、マルチカノニカル分子動力学法で出現確率をフラットにする温度幅を290-600K,290-700K,325-600K,340-500K,350-600Kとさまざまに変えて、アンフォールド状態から構造サンプリングを行い、それぞれの結果を比較することで、最良のシミュレーション条件を探索した。それぞれ数10ns程度のシミュレーションを行い、得られた構造アンサンブルに、ヘアピン構造の中に観測されるステム部の水素結合やloop closing base pairがどの程度形成されているかを解析した。その結果、出現確率をフラットにする温度の下限を290Kにした場合、シミュレーションの途中にエネルギーの谷に落ち込んで、そのままその谷の中に構造がとどまってしまうという現象がみられた。温度の下限を325K以上にした場合は、そのような現象はほとんど起きなかった。また温度の下限を340K以上にした場合は、ヘアピン構造に近い構造がほとんどサンプルされなかった。主なシミュレーション対象と考えているdGC(GNA)GCの4種類の融解温度が60℃以上であることを考え合わせると、低エネルギーのヘアピン構造をサンプリングするためには、温度の下限が高すぎると考えられた。以上より、マルチカノニカル分子動力学法で出現確率をフラットにする温度幅を、325K-600Kと決定した。 また、ヘアピン構造を1回形成したdGC(GAA)GCについて、ヘアピン構造形成と崩壊の過程を詳細に解析した。具体的には、水素結合のパターンによって遷移状態を分類し、ヘアピン構造形成と崩壊のパスウェイをみた。12塩基から成るRNA4ループヘアピン分子について天然構造から通常の分子動力学シミュレーションによって崩壊を解析したSorinらの研究結果では、ヘアピンの形成・崩壊のパスウェイとして、zipping/unzippingとcompaction/expansionの2種類が提案されているが、dGC(GAA)GCの場合は、compactionによるヘアピンの形成であると結論付けた。ヘアピン形成のシミュレーション結果の内容については、インドネシア・バイオテクノロジー・カンファレンス2004(IBC2004)における招待講演で発表した。
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