研究概要 |
すべての細胞は高温にさらされると、その恒常性を維持するために熱ショック応答を行なう。多くの熱ショックタンパク質遺伝子の転写は、そのプロモーター領域にある特異的塩基配列(HSE)に結合する熱ショック転写因子(HSF)により制御されている。本研究では、HSFによる遺伝子の特異的な転写調節がどのように支配されているかについて、酵母菌のHsf1をモデルとして以下のことを明らかにした。 1,熱ショックによりHsf1はリン酸化される。この修飾は遺伝子特異的な転写に関与している。リン酸化されない変異hsf1から抑圧変異を分離すると、DNA結合領域内にアミノ酸置換が認められた。さらなる解析より、Hsf1のリン酸化はHsf1-Hsf1相互作用と関連があり、相互作用を引き起こさないHSEからの転写にはHsf1のリン酸化が必須であるのに対し、強い相互作用を引き起こすHSEからの転写には不要であることを示した(JBC 281:3936-3942,2006)。 2,小胞体内でのジスルフィド結合形成に関与するEro1タンパク遺伝子の転写活性化について検討した。この遺伝子はHsf1とHac1(小胞体ストレス応答に関与する転写因子)により調節されていることを明らかにした(MGG 275:89-96,2006)。 3,酸化ストレスを引き起こすさまざまな薬剤(H_2O_2,menadione, diamideなど)で酵母菌を処理し、Hsf1の標的遺伝子の転写誘導について検討した。その結果、menadioneやdiamide処理により標的遺伝子の転写が活性化されたが、H_2O_2は転写誘導を引き起こさなかった。また、menadioneやdiamideは、Hsf1のリン酸化を誘導し遺伝子特異的に作用することが明らかになった(論文準備中)。 今後は、Hsf11のリン酸化と遺伝子特異的な転写調節および哺乳動物HSFとの相関について検討する必要がある。
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