研究概要 |
細胞は高温にさらされると、恒常性を維持するために熱ショック応答を行う。この反応を担う熱ショックタンパク質(HSP)遺伝子の転写は、プロモーター領域のHSE(Heat Shock Element)に結合する熱ショック転写因子HSF(Heat Shock Factor)により制御されている。これまでの研究では、出芽酵母では1種のHSFタンパクが、さまざまなHSEバリアント(Perfect-,Gap-,Step-type)に結合しHSP遺伝子の転写を調節していることを示した。本年度は、HSFの三量体形成が転写活性化に伴うHSFのリン酸化に必須であることを明らかにした。 一方、ヒトでは3種のHSF(hHSF1,hHSF2,hHSF4)がサブファミリーを形成している。そこで、さまざまなHSEバリアントがヒトhHSF1により認識されHSEとして機能するかについて研究を行った。ヒトhHSF1を発現する酵母株では、Perfect-type HSEを持つ遺伝子群の転写は正常に活性化されたのに対しGap-typeやStep-type HSEを持つ遺伝子群の転写はほぼ完全に阻害されていた。これは、hHSF1が後者のHSEには強く結合できないことに起因した。さらに、酵母菌内ではクロマチン構造がhHSF1とHSEの相互作用を阻害することが示唆された。 これらの結果より、酵母HSFのリン酸化は、転写活性化能力の獲得と密接な関連があることが明らかになった。今後は、ヒトHSFサブファミリーのhHSF2やhHSF4がGap-typeやStep-type HSEに結合できるか、ヒト細胞内ではこのようなHSEバリアントが機能するか、また、クロマチン構造によるhHSF1-HSE相互作用の阻害のメカニズムについて検討する必要がある。
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