すべての細胞は外界からストレスを受けると、その恒常性を維持するために熱ショック応答を行なう。この生物に普遍的な応答機構は、熱ショックタンパク質(HSP : Heat Shock Protein)に担われている。多くのHSP遺伝子の発現(転写)は、そのプロモーター領域にある特異的塩基配列HSE(Heat Shock Element)に結合する熱ショック転写因子(HSF : Heat Shock Factor)により制御されている。一方酵母菌のHsf1は熱ショックによりリン酸化され転写活性化能力を3得する。本研究では「Hsf1のリン酸化と脱リン酸化の制御機構」について解析した。さらにストレス応答全般におけるHsf1の役割について明らかにするため、「さまざまなストレス応答反応におけるHsf1の役割」について検討した。 DNAマイクロアレイ法により、酵母Hsf1は約70個の遺伝子の熱ショック転写に必要であり、その標的遺伝子は、HSPをコードするのみならず、熱ショック時の細胞壁の再構成や小胞体でのS-S結合の形成にも関与することを明らかにした。また、Hsf1のリン酸化はHsf1三量体が1つ結合するようなHSEを持つ遺伝子の転写には必要だが、2つ以上結合する場合は不要であることより、リン酸化はHsf1三量体間の相互作用と関連すること、Hsf1のリン酸化には三量体形成が必須であり、また、DNA結合領域の構造変化と密接な関連があること、DNA結合領域の構造変化は転写活性化能力を調節することを明らかにした。さらに、ヒトのHSF1は酵母のHsf1と異なる機構によりHSEに結合する結果も得た。 今後は、さまざまなHSE配列は遺伝子特異的な転写調節、さらに、ストレス特異的な制御について解析していく必要がある。
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