申請者は、有糸分裂中の出芽酵母二倍体細胞におけるヘテロなマーカー遺伝子の喪失(LOH)を指標に、多様なゲノム変化(染色体喪失、交叉・転座・欠失などの染色体再編、点突然変異)を分子レベルで解析する系を用いて、内因性のDNA損傷やDNA複製障害を解消してゲノムを安定に維持する機構について解析を進めている。これ迄に、染色体の安定な維持には相同組換えや複製後修復を中心としたゲノム維持機構が関与していること、また、この相同組換えによる機構は複数のステップでゲノムの変化を抑える様に制御されていることを明らかにしてきた。本研究の目標は、これらの制御機構の分子メカニズムを理解することである。本年度はこれらの中でも特に相同組換え機構と複製後修復機構を使い分ける機構に焦点を絞り、SRS2遺伝子の作用を中心に解析を行った。相同組換えと複製後修復の使い分けにおけるSRS2の関与や、その作用点・機能について検証するために、srs2単独欠損、及び、SRS2と複製後修復遺伝子(RAD18)や相同組換え遺伝子(RAD51・RAD52)との二重欠損によって誘発されるゲノム変化を上記の実験系を用いて包括的に解析した。srs2 rad18二重欠損株ではそれぞれの単独欠損の場合に比べて染色体再編が相乗的に上昇したことから、SRS2は相同組換えを抑制しているが、その作用は複製後修復と相同組換えとの間の相互作用とは独立していることが示唆された。さらに、srs2欠損下では、染色体再編の種類の分布に変化が生じて相対的に遺伝子変換が低下することや、相同組換えによって引き起こされる染色体喪失が誘発されること等、SRS2が相同組換え自体にも関わっていることが示された。また、rad51欠損にsrs2欠損を加えても、ゲノム変化のパターンはrad51単独欠損の場合と同様であったことから、SRS2は基本的にRAD51と同じ経路で作用していることが分かった。以上の結果より、SRS2はRAD51が作用している複数の過程で拮抗的に働いて相同組換えを制御しているとの仮説を立て、検証を進めている。
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