研究課題
基盤研究(C)
Scapinin(SCP)は白血病細胞HL-60の核の不溶成分に強く結合する新規のプロテインホスファターゼ-1制御蛋白質として同定したが、成体では成熟した白血球にはほとんど発現しておらず、脳に発現が高い。また、SCPを培養細胞内で強制発現すると核以外に膜のmicrovilli構造に分布した。これらの観察結果は「SCPは白血球細胞の核構造の恒常的な構成成分で、核蛋白のリン酸化制御に関係する」という我々の当初の予想に疑問が残った。この疑問に答える為にはSCPの生理機能を明らかにする必要がある。本研究では2つのアプローチでこの問題に取り組んだ。(1)SCPと結合するタンパク質を酵母Two-Hybrid法や免疫沈降などの生化学的手法を用いて決定する。(2)一過性の発現実験からテトラサイクリンによる発現誘導系に変えて、より分析的な実験をおこなう。以上のアプローチにより、SCPはアクチン結合蛋白質で細胞接着促進作用を有することが明らかになった。アクチン結合にはSCPに存在するRPELリピート領域が関係することも明らかにした。RPELリピートは約20アミノ酸からなる配列で、保存されたアルギニン、プロリン、グルタミン酸、ロイシン残基を有する。SCP発現すると細胞接着が促進されるが、その時、細胞内分布を調べると細胞伸展の先端部分(葉状仮足)に局在しており、その分布はアクチンのファロイジン染色と一致した。SCPの細胞内分布は細胞接着促進作用と良く一致する。酵母Two-hybrid法による解析では、アクチン以外に、転写制御に関係する核蛋白が2種類、膜蛋白が3種類、ユビキチン化関連蛋白が1種類とれた。これらが真にSCP結合蛋白質であるかどうかは次の課題であるが、これらの結果はSCPが膜-アクチン間の構造変換と遺伝子発現制御に関係することを示唆しているだろう。今後、これらの点をさらに研究する必要がある。
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