HB-EGFはEGFファミリーに属する増殖因子であり、EGFRと結合し細胞にシグナルを伝達ずる。HB-EGFの機能的特徴の一つはヘパリン結合性を示すことである。本研究における、HB-EGFのヘパリン結合性と、この性質によるヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)との相互作用のHB-EGFの生理活性に対する影響とその意義についての解析から、以下のことが明らかとなった。 1)HB-EGFのヘパリン結合領域(HBD)を欠失させることでHSとの結合能を欠いた変異HB-EGF(HB-ΔHB)分子の解析から、HBDはHB-EGFの活性中心であるEGF領域の活性を構造的に負に制御しており、HBDを介してHSと結合することで負の制御が解除され、結果としてHB-EGFの活性が上昇することがわかった。 2)遊離型HS糖鎖ではなく、HSPGのHSに結合したHB-EGFの活性を評価するために、EGFR発現細胞を、HSPGを介してHB-EGFを表面に結合している細胞と共培養する系を確立した。するとHSPGに結合したHB-EGFはEGFR発現細胞に対して増殖抑制活性を示した。これは、HSPG結合型HB-EGFがEGFRおよびその下流のMAPKシグナル系の持続的活性化を誘導し、その結果EGFR発現細胞の細胞周期停止が起こるためであることがわかった。 3)HB-EGFのヘパリン結合性の生理的意義を解明する目的で、HSとの結合能を欠いた変異HB-EGF(HB-ΔHB)発現ノックインマウスを作製・解析したところ、このマウスはKOマウスと同様に、心臓弁形成過程で間質細胞の過増殖がおこり、心臓弁肥厚を呈することを見いだした。これらのことから、心臓弁形成過程における正常なHB-EGFの機能発揮には、HB-EGFと心臓弁間質におけるHSPGとの相互作用が必須であり、HSPGと結合したHB-EGFは心臓弁間質細胞の増殖を負に制御していることがわかった。 以上の結果から、HB-EGFはHSPGと結合することで増殖促進から抑制に活性転換し、このことが生理的(心臓弁形成過程)にも重要であることが示された。
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