研究概要 |
SOX2は、HMGドメインを持つ転写制御因子であり、特に胚発生の過程で重要な役割を担っている。我々は、これまでにSOX2の直接の制御標的として水晶体においてはδ-クリスタリン、また中枢神経系においてはネスチン遺伝子のエンハンサーを同定した。これらの解析を通して、SOX2はPax6やBrn1/2という異なる因子をパートナーとし、組織ごとに異なる標的遺伝子の制御をダイナミックにおこなっていることを明らかにした。本研究は、SOX2の細胞分化・形態形成における役割を包括的に理解するために、どのような下流標的遺伝子を、どのようなメカニズムで制御しているかを明らかにすることを目的に実施した。 本年度は、N-cad遺伝子の水晶体および中枢神経系における発現制御が、SOX2によって制御されていることを示した。まず、N-cadの水晶体および神経系の細胞における特異的な発現制御に関わる4つのエンハンサー(E1〜E4)を同定した。このうち、E2,E3,E4が発生初期の中枢神経系でも活性を持つことを、ニワトリ胚にレポーター遺伝子を導入することにより示した。水晶体で強い活性を持つエンハンサーE4に関して詳しい解析を行い、水晶体における活性に必要不可欠な30bpの配列を見出した。この配列には、SOX2結合配列が含まれていたが、変異解析によりSOX2結合配列およびそれに隣接した配列が活性に重要であることが分かった。また、この配列に結合する因子をゲル移動度シフト法で同定することが出来た。神経系で強い活性をもつエンハンサー(E2,E3)についても、SOX2結合配列に変異を導入するとエンハンサー活性がなくなることから、SOX2がこれらのエンハンサーの制御にも関与していることが示された。また、クロマチン免疫沈降法により、生体内でSOX2がこれらのエンハンサー配列に実際に作用していることを確かめた。
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