研究概要 |
受精後の哺乳類卵の細胞質内で生じる母性RNAのポリA鎖伸長現象は、我々が独自に単離したマウス初期胚発現遺伝子、Bri3/SSEC-Dの解析から見出された現象であり、我々は同現象が哺乳類の発生プログラム開始に重要な、受精後胚での遺伝情報発現制御へ関与すると考えている。 我々はこの現象の全容と生物学的意義の解明を目指すため、受精後ポリA鎖を伸長する母性RNA群を濃縮する新規なcDNA Library作製法(マウス受精卵にATP誘導体であるBiotin-ATPを、ポリA鎖を伸長する母性RNAのみが取り込む条件で導入し、そのRNAをStreptavidin架橋の磁気ビーズで回収。得られたRNA群からPCRベースのcDNALibraryを作製)を考案し、試行錯誤の末、その作製についに成功した(Sakurai et al.,2005)。 パイロット実験として、同cDNA Libraryから、現在まで約1000クローンの単離とその塩基配列の決定を終えた。さらにこの中から選択した25クローンについて、マウス受精卵から2細胞期胚初期におけるポリA鎖の動態の解析を実行した。その結果、検定した全ての遺伝子RNAがポリA鎖伸縮を示し、驚くべき事に、その様式は受精卵期に短時間内にポリA鎖伸長短縮を繰り返すもの、2細胞期胚の初期で劇的に分解されるものなど特異的なものが存在することを発見した(本研究の契機となったBri3/SSEC-D母性RNAと同様式のグループを含め5様式に分類)。また、これらの遺伝子は特定の機能に分類されるものではなかった。 以上の解析から、マウス受精卵期のポリA鎖伸長はBri3/SSEC-D遺伝子に限らず多くの母性RNAに見られる普遍的な現象であること、かつ、マウス受精卵は予想外の多様なポリA鎖変動様式によって胚発生プログラム開始期における母性RNA情報発現の制御を行っている可能性を強く示唆した。
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