我々が見出したマウス受精卵期での特定母性mRNAのポリA鎖伸長現象が受精卵での母性RNA動態理解への手がかりとなると考え、受精卵期での母性RNAの機能解析系を確立することを目指した。そこで我々はマウス受精卵において非de novoでポリA鎖を伸長させる母性RNA群を濃縮した新規cDNAライブラリー、CPF7を独自に考案し、その作製に成功した。 同cDNAライブラリーから約1000個のクローンを単離し、分子生物学的に解析した結果、マウス受精卵でポリA鎖を伸長させると報じられた遺伝子が全て含まれていた。さらに、優先的に実施されたEmbryonic Northern Blot解析から、単離された遺伝子クローンがFully grown oocyte期から2細胞期においてポリA鎖伸縮を実際起こしていることを確認した。これら遺伝子は、全て未報告のものであった。つまり、マウス受精卵期における母性mRNAのポリA鎖伸縮現象は特定の機能を持つ母性転写物に限定されず、多様な種類の母性RNAに生じる現象であることが判った。驚くべき事に、我々はこれらポリA鎖伸縮様式には多様性が存在することを発見し、少なくとも現時点で、それらは3種類(Type I、II、III)、7亜種類に分類できることを初めて示した。 これらの結果、マウスdormant母性mRNAは、本解析で初めて見出された多様なポリA鎖伸縮および時期特異的分解によりその安定性や翻訳調節を行っていると予想された。この多様な母性mRNAが生じる機構に関しては、卵母細胞において解析が進んでいるCPE経路を伴うType IIの母性RNA群を除けば、受精卵期における時期特異的なポリA鎖伸縮現象には未知の機構制御が係わっていることが示唆された。 今回、ポリA鎖伸縮パターンを示す遺伝子クローンは7亜種類のそれぞれで複数個単離された。今後、受精卵期でのポリA鎖伸縮機構の解析には、同じポリA鎖伸縮パターンを持つクローン同士に注目し、それらを詳細に研究することが目標となり、そこから母性RNAの動態、時期特異的翻訳あるいは分解制御に関する重要な知見が得られることが期待される。
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