形態形成は、形づくりの設計図である遺伝子にしたがって行われる。一方、多細胞生物は細胞からできているのだから細胞たちが形づくりを行っている。形をつくるためには細胞の変形や動きが必須である。そこには細胞が組織のなかでどこに位置するか、位置決めが重要になってくる。従来考えられている拡散性の分子の他に、直接接触する細胞同士の相互作用の中で働く非拡散性の分子(エフリン分子群とそのリセプターなど)を調べることからこの基盤研究は始まった。(1)この分子が働いている可能性は、in vitroでの視神経軸索の行動、ノックアウトマウスを使った網膜-上丘投射、組織中にできる細胞パターンの実験などでこれまで示唆されているが、ここでは古典的な網膜-視蓋投射の再生実験結果をもこの非拡散性の分子で説明できること示した。(2)これらの分子は隣り合った細胞間の相互作用を司る。分子の働く場として細胞集団のモデルが必要である。このモデルとして3次元空間で袋を形成している上皮組織モデルをつくることに成功した。(3)さらにこの上皮組織モデルは構成する細胞が自らつくる力によって形態変化を起こすことが可能な事を示した。組織を構成している細胞が方向を認識してカを出すのである。次に行うべき事は、組織中のどこの細胞がこのような力を出す細胞になるかの指定である。ここに細胞位置決め機構がはたらく。こうして今後、発生過程で見られる上皮陥入などの形態形成の機構を解明できるようになった。ここまでが4年間の研究の成果である。
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