研究概要 |
本研究では、1)深海の冷水湧出帯や熱水噴出孔にみられる化学合成生物群集の主要なメンバーであるシンカイヒバリガイ類の類縁関係を明らかにし、種分化を促す要因、分散の能力、環境への適応力に関する知見を得ること、2)鯨遺骸や沈木、沿岸域のイガイ類との類縁関係を検討し、シンカイヒバリガイ類の起源を探索すること、3)細胞内共生細菌の系統関係を明らかにし、シンカイヒバリガイ類と共生細菌の共進化の様相を解明すること、を目的とした。 シンカイヒバリガイ類とそれに近縁なイガイ類のミトコンドリア遺伝子塩基配列に基づく系統解析の結果、鯨遺骸や沈木に生息するイガイ類はおおむねシンカイヒバリガイ類の外群となり、沿岸域に生息するものはさらにその外側に位置した。このことは、深海生物は沿岸域から鯨遺骸や沈木を経由して深海域に適応したとする"進化的ステッピング・ストーン説"を支持した。 沖縄トラフの熱水域と相模湾の冷水域に生息する種において、両地域の間で遺伝的な相違はみられず、シンカイヒバリガイ類の環境への適応能力は高いことを示した。また、直線距離で約5,000km離れている南西太平洋と日本周辺海域に生息する種は、遺伝的にほとんど異ならないこと、さらにそれらの生息域に約10,000km離れているインド洋の種も極めて遺伝的に近縁であることが明らかとなり、シンカイヒバリガイ類の分散能力は極めて高いことを示した。 共生細菌のrRNA遺伝子の塩基配列の決定も進んでおり.、シンカイヒバリガイ類にはメタン酸化細菌だけをもつもの、主にイオウ酸化細菌をもつものがおり、シンカイヒバリガイ類と共生細菌の共進化の一端が明らかになった。また、鯨遺骸のイガイ類にシンカイヒバリガイ類と同様に細胞内共生様式をとるものと、より原始的である細胞外共生様式をとるものがあり、深海への進出に伴う栄養摂取法の適応過程を類推することも可能となった。
|