スズキ類ノトセニア亜目魚類での極限環境における適応進化と集団動態を調べるために平成18年度はノトセニア亜目魚類で得られている塩基配列を用いてデータ解析を行った。その結果ヘモグロビン遺伝子の解析で次のことが示された。一つは、成魚で主要なヘモグロビンのサブユニットであるαグロビンとβグロビンをコードする遺伝子の系統関係が他の遺伝子などで推定されている種の系統関係とは異なり、またαグロビンとβグロビンで異なることである。興味あることにコオリウオ科のヘモグロビンの研究からNearら(2006)は異なる対立遺伝子が進化的に比較的長い時間集団に保存されてきたと類推している。同様のことがノトセニア亜目魚類の主な系統が分化した祖先の世代においても生じていたとするとαグロビンとβグロビンの遺伝子で系統関係が異なり、またそれがミトコンドリア遺伝子などから類推されている系統関係と異なることを説明できる。他の遺伝子を用いて系統関係を調べた場合でもノトセニア亜目魚類の主な系統の関係は遺伝子によって異なっていたことから、ノトセニア亜目の科を代表する主な系統の種分化の間隔が祖先の集団の大きさに比べて短かく系統関係が遺伝子によって異なることとなったのではないかと類推された。またヘモグロビン遺伝子の祖先配列を類推することでα遺伝子ではコオリウオ科のNeopagetopsis ionahに至る系統で非同義置換が正の選択によって蓄積してきたことが支持された。コオリウオ科のβ遺伝子は偽遺伝子化しておりヘモグロビンがタンパク質として機能していないにも関わらずこのような正の選択が示されたことから、コオリウオ科の系統でヘモグロビン遺伝子を失うように選択圧がかかった可能性があること示された。
|