スズキ類ノトセニア亜目の魚類が極限環境で生息できるのはAFGPを進化の過程で獲得したことが一つの要因である。今回、塩基配列の解析でAFGP遺伝子の起源はノトセニア科、ハルパギファ科、アゴヒゲオコゼ科、カモグチウオ科、コオリウオ科が分化し始める頃の2180〜2430万年前と推定された。 Nearら(2006)はノトセニア亜目コオリウオ科の15種で成魚型のヘモグロビン遺伝子がゲノムからほぼ失われているのに対し1種でα遺伝子が残っていることを発見しコオリウオ科の種分化の過程で多型対立遺伝子が維持されたと結論した。偽遺伝子であるこれら二つのハプロタイプが数百万年にわたる種分化の間で中立的に維持され続けるには非常に大きな集団が遺伝的に必要となる。現在のミトコンドリアの配列解析からはいくつかの種で十万から百万の桁の有効な集団の大きさが推定されるが、現在の集団は比較的最近拡張したものであること、数百万年もの間対立遺伝子を中立的に存続するために必要な有効な集団の大きさは現在でも上限に近いこと、さらにその間に生物の種分化が数度起きていることを考えると観察されたハプロタイプが中立的に多型対立遺伝子として長期存在した可能性は低いと考えられる。ヘモグロビンの塩基配列解析からコオリウオ科の系統で正の自然選択が見出されたことから、これらの多型対立遺伝子の維持にも自然選択がかかったことも考えられる。 ミトコンドリア遺伝子での研究からライギョダマシは遺伝的に均一であることが示されたが、主要組織適合遺伝子複合体においては多型が観察され過去により大きな集団を構成していたことが類推された。また免疫グロブリン遺伝子の解析ではオリゴヌクレオチドの重複がAFGPと同様に重要な役割を果たしていることが示された。
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