研究概要 |
性決定に関するこれまでの研究は、ヒトを始めとして核ゲノムに存在するマスター遺伝子を中心に進められてきた。しかし、私達は、脊椎動物のツチガエルにおいて、卵の細胞質中に性の決定を左右する細胞質因子の存在を示唆する実験結果を得た。そこで、本研究ではその実態を明らかにするため、次の3つに焦点を絞って実験を行った。 1.卵に存在するバクテリア(ボルバキア)の関与 無脊椎動物のハチや蝶などでは、その卵に宿主の性を変更する寄生細菌ボルバキアの存在が知られている。そこで、ボルバキアゲノムに特異的なプライマーを設計し、PCR法によってツチガエル卵での検出を試みた。その結果、2つの集団で増幅バンドが得られたが、ボルバキアゲノムとの相同性は認められなかった。 2.ミトコンドリアゲノムの解析 ツチガエルのミトコンドリアゲノム内に性の決定に関与する遺伝子を探索するため、正逆交雑で性比が大きく乱れる2つの集団(伊勢原と広島)について、そのゲノムを解析した。その結果、伊勢原の余剰なコントロール領域に10残基が6回繰り返し、両鎖の3つの読み枠がすべて翻訳可能な新規遺伝子を発見した。そのタンパクはマラリア原虫の未知タンパクと相同性を示す。 3.母性因子の探索 ZZメスとWWメスを作成し、mRNAサブトラクション法によって、W性染色体に由来し、WW卵で強く発現する母性因子の探索を行った。スクリーニングの結果、WW-(マイナス)ZZの系では、4種類のガレクチン、ミトコンドリアのチトクロームC(Cox1)、そしてprotein convertasseが単離された。一方、ZZ-WW系では、転写因子(Tf1,Hdbx,Sp1等)が単離され、ZZ卵とWW卵内における構成分子の顕著な違いが明らかとなった。また、卵巣決定期に生殖腺上皮細胞で発現するW染色体連鎖の新規糖タンパク遺伝子を発見した。
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