全生物の共通の祖先が超好熱菌であったという仮説を検証する実験を進めている。酵素の系統樹を書くことから全生物の共通の祖先が持っていた酵素のアミノ酸配列を推定し、祖先型アミノ酸残基の酵素に対する影響を調べている。すでに、昨年度までに高度好熱菌Thermus thermophilusの持っていたイソプロピルリンゴ酸脱水素酵素を材料として、祖先型アミノ酸配列を変異として導入した祖先型イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素を12種類作製した。その耐熱性を測定したところ6種類でタンパク質耐熱性が上昇していた。これまでの祖先型変異酵素の推定では祖先型変異として良く保存されたアミノ酸を導入していた。従って、祖先型変異の効果がアミノ酸の保存性に依存した効果である可能性が否定できなかった。今年度の研究で、祖先型変異酵素の統計的解析を行い、祖先型酵素の耐熱性上昇効果はアミノ酸の保存性に依存した物ではなく、祖先型アミノ酸であることに起因していることを明らかにした。 ついで、耐熱性上昇効果を持つ祖先型アミノ酸残基複数個をもつ多変異祖先型酵素を作製した。多変異祖先型酵素は、一変異祖先型酵素よりもさらに高い耐熱性を持つことが明らかとなった。さらに、こうして作製した一変異祖先型酵素及び多変異祖先型酵素は高温での高い活性を保持しているか、またはさらに高い活性を示すことが分かった。 これまでの研究では祖先型アミノ酸配列を現存する生物の酵素遺伝子に変異導入して、その祖先型変異の効果を検討した。今年度、NDTを材料として真正細菌の祖先生物が持っていた真正細菌祖先型NDTと古細菌の祖先が持っていた古細菌祖先型NDTの全合成を行った。全合成した遺伝子を大腸菌内で発現、精製に成功した。それらの完全祖先型遺伝子は高い耐熱性を保持している事が明らかとなった。
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