研究課題
(1)ヒドラで循環機能優位か消化機能優位かを制御するはたらきを持つ神経系、つまり、自律神経系と似た機能を有する神経系は、これまでの結果から触手に多く分布する可能性が示唆されている。このため、触手形成機構を解明することは、神経系の形成部域の形成機構という観点からも重要である。米国のカリフォルニア大学アーヴァイン校のBode教授と共同研究で、ヒドラ触手形成に関わる細胞内伝達系に関する基礎研究を行った。GSK-3βはβ-cateninなど広範囲なタンパク質をリン酸化するセリン/スレオニンキナーゼである。GSK-3βの特異的な阻害効果を持つ薬剤である、ALP(alsterpaullone)を用いてヒドラ個体を処理すると、体表で広範に触手形成が認められる。ALP処理によって核内のβ-cateninレベルが上昇することから、上皮細胞の核内β-cateninレベルの上昇が触手形成に重要と考えられてきたが、その予測に反する結果が新たに得られた。神経細胞を完全に除去した無神経ヒドラをALP処理した結果、触手形成は認められなかった。この結果は、神経細胞内のβ-cateninレベル上昇が触手形成にとって重要な要因である可能性を強く示唆する。(2)摂食行動は動物の生理的行動の中でも最も基本的、根本的なものである。これまでヒドラでは口丘部からのエサの取り込みを摂食と考えてきた。我々は、進化的な観点から見た場合、高等動物の口の摂食行動に該当するのはヒドラの口とは反対端にある足盤部の基質への接着行動である、とする新規仮説を提唱するにいたった(投稿準備中)。足盤部中央にあるaboral poreと呼ぶ穴は、外部とヒドラの消化管を連結している。吸着機能を持つ構造は一般にsucker(吸盤)と呼ばれるが、消化管と連結している場合はoral sucker(口吸盤)と呼ばれており、寄生虫の口がこれに相当する。我々は、ヒドラの足盤は摂食には関与しないものの、構造的には口に匹敵し、足盤の吸着が摂食と進化的に関連した現象であると考えている。
すべて 2004 その他
すべて 雑誌論文 (6件)
J.Biol.Chem. 279・32
ページ: 33379-33389
J.Comp.Physiol.A. 190・8
ページ: 623-630
Development, Genes and Evolution 214
ページ: 486-492
Current Biology 14・20
ページ: 879-880
Mechanisms of Development 122
ページ: 109-122
Development (In press)