南西諸島において北端の種子島から南端に近い石垣島におよぶ歯の人類学的調査によって、南西諸島の集団は先史時代には縄文時代人的特徴を持っていたが、その後渡来系集団の遺伝的影響を受け、渡来系集団的特徴を強くしていったものと推測される。このことから、縄文時代から弥生時代への移行期に大陸からの渡来系集団の遺伝的影響を強く受けた本州西部や九州北部などの地域に比べて、南西諸島が渡来系の遺伝的影響を受けた時期は、弥生時代よりもかなり後の時期であったことが示唆される。このような仮説のもとで、南西諸島において縄文人的特徴から渡来系的特徴に変化した時期を特定するためには、現代人ばかりでなく、古人骨を調査することが不可欠である。本年度も前年度に引き続き、沖縄本島から出土した中世と近世の人骨について、歯冠と歯根に出現する非計測的形質の出現頻度、および歯頸部を含めた歯冠の詳細な計測データを調査した。本年度は、沖縄本島の中でも人骨の出土例が少ない本島北部の遺跡から出土した貴重な人骨を対象に調査を行った。沖縄本島における人骨は個体数が限られている上に、歯の保存状態が悪く、データ採取が可能な個体数がさらに限られるため、南西諸島人の資料数を追加することはなかなか困難であるが、今回採取したデータの中でも特に奥間の人骨は歯の残りが比較的良いため、有効なデータの採取が可能であった。前年度から今年度にかけて採取したデータだけでは、統計学的に十分な資料数にはまだ達していないので、最終年度も引き続きデータの採取を行うことによって、沖縄本島における近世集団の形質を明らかにする予定である。
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