研究概要 |
コムギ連植物で単離された新規のトランスポゾン様遺伝子Revolverは共通配列の全長が3,041bpで、両末端に14bpの特異的な逆位反復配列を持ち,推定118アミノ酸残基のORFをコードする1個の遺伝子を含んでいる。Revolverはライムギでは1.9万コピーが染色体全域に散在し、Revolver遺伝子のmRNAが活発に転写されている。Revolverの5'側の転写開始点の上流137bpの領域と3'側の第1イントロンの途中から第3エキソン下流までの2101bpの領域は,オオムギの挿入配列として見いだされたLARD(large retrotransposon derivative)因子に60%の相同性を示すが、LARD(4,322bp)はRevolverの5'末端123bp部分と第1イントロンの途中から第3エキソン下流非翻訳領域の3'末端までの2,146bp部分の相同領域を持つが、中央の124〜2,176bpの領域はLARD間で変異が大きく、Revolverとの相同性が全く無くて第1エキソン部分を欠くため、Revolverを自律性因子とするトランスポゾンに派生した非自律性因子である。Revolverはライムギゲノム全域に散在し,パンコムギにはあまり存在しないが、その祖先種の二倍性、四倍性コムギには中度に反復して存在するので、コムギ連植物の進化において増減してきたと考えられる。そこで、野生四倍性コムギTriticum dicoccoidesについて、その起原地に近く気象や地理的な条件が異なるイスラエルの多様な18の生態系で採取された209の自生系統について、Revolverの遺伝子量を解析したところ、生態ストレスによる著しい量的変異が見いだされた。年間平均気温が20℃前後で降水量が多い地域の自生系統にはRevolverが平均6千コピー以上存在し、ライムギを越える3.6万コピーに達するものがあった。これに対して、高温乾燥の季節風が年間85日も多発する地域と熱帯夜が年間80日に達する地域の大多数の系統には数百コピーしか存在しなかった。このような同一種におけるRevolverの生態系間の著しい量的差異は最近1万年以内におけるその強い増幅活性を示している。次に,T.dicoccoidesとAegilops squarrosaの雑種の合成コムギを使って雑種形成におけるRevolverの変動を分析した。合成コムギ18系統にRevolverは平均17,800コピー存在し,T.dicoccoidesの23,000,A.squarrosaの5,800コピーに対して,両親の和にほぼ等しい6系統,8,500〜58,000コピー低い11系統,高い1系統となり,サザンブロット解析でも雑種形成によりRevolverが減少する傾向を示した。ついで,ライムギゲノムに分散しているRevolverをPCRの起点にして分子マーカーを開発するため,ライムギ染色体添加コムギ系統のゲノムDNAを制限酵素EcoR Iで消化してEcoR Iアダプターを連結し,まず,アダプタープライマーによる前PCR増幅を行い,続いてRevolverの第3エキソン部分をプライマーとする選択的PCR増幅を行ってSSAP(配列特異的増幅産物多型)を検出した。ライムギ1R染色体から特異的に増幅された150〜270bpのDNA断片はいずれも両端にRevolverとEcoR Iアダプターのプライマー部分を確かに持ち,Revolverを用いるSSAP法により染色体特異的に散在する多数の分子マーカーを獲得することができる。
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