本研究課題では、種子休眠および穂発芽に関するコムギの突然変異体を解析し、穂発芽の発生に関わる要因を遺伝学的に解剖することを目的として、以下の研究を行った。 1.種子休眠性低下突然変異系統RSDのABA感受性 農林61号及びRSD系統の種子におけるABA感受性に対する種子発達段階とABA濃度の影響を調査した結果、各要因に対する反応はRSD系統間で異なることが明らかとなった。 2.遺伝分析 農林61号とRSD系統の問で交配を行い、F_1種子における休眠性を調査した。その結果、RSD14-1およびRSD12は優性突然変異、RSD16-1およびRSD32は劣性突然変異であることが明らかとなった。また、農林61号とRSD系統間のF_2集団について休眠性を調査した結果、RSD32は劣性の1遺伝子の変異により生じた突然変異であると考えられた。 3.α-amylaseの発現制御に関わる遺伝子の解析 RSD系統における種子胚でのα-amylase遺伝子の発現は農林61号に比べて高かった。α-amylase遺伝子の制御に関与し、種子胚で特異的に発現する遺伝子を調査したところ、TaABFの発現が調査した全てのRSD系統で低下していた。また、一部の系統ではTaAFPの発現も低下した。 4.ABA誘導性遺伝子の発現解析 種子特異的に発現し、ABA誘導性を有するEm遺伝子の発現は、全てのRSD系統で低下しており、RSD系統の種子胚ではABAシグナルの低下が生じていると考えられた。一方で、幼植物におけるABA応答性遺伝子の発現には、農林61号とRSD系統の問で差は認められなかった。このことから、これらRSD系統における変異は種子特異的変異である可能性が考えられた。 5.cDNAサブトラクションによる遺伝子発現の比較 農林61号とRSD32の種子胚における遺伝子発現の差をcDNAサブトラクションにより比較した結果、これら系統間で発現量に差のある二つのクローンを選抜した。 6.二次元電気泳動法による発現タンパク質の比較解析 農林61号及びRSD32の種子胚より抽出したタンパク質を二次元電気泳動法により解析した結果、両系統問には質的もしくは量的に異なる特性を有するスポットが複数存在した。 7.穂発芽突然変異系統の作出 穂発芽耐性品種である農林61号をアジ化ナトリウム処理したM_5集団から約2100本の穂を採取し、穂の状態で吸水、発芽させることによりスクリーニングを行い、27系統の穂発芽突然変異系統(EPS : Enhanced Pre-harvest Sprouting)を選抜した。
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