米の品質劣化を防止し貯蔵性を向上させることは、ポストハーベストにおける最も重要な課題の一つである。米の品質劣化には脂質の分解・酸化が関係し、遊離脂肪酸の増加による物理性の悪化や古米臭の発生が指摘されている。遊離脂肪酸は、ホスホリパーゼD (PLD)の作用で細胞内穎粒が崩壊することにより生成される。そこで本研究においては、PLDが完全に欠失したイネ系統を選抜と、その欠失系統の特性の解析を行う。 PLDタンパク質。PLD欠失系統候補「03-s108」のM3、M4種子ぬか画分には、抗PLD抗体により検出可能なタンパク質は認められなかった。次にぬか画分より粗酵素画分と硫安濃縮画分を調整し、PLD活性を測定した。PLDが一つ欠失している「NDOO52」の酵素活性は「日本晴」程度であったが、「03-s108」の活性はそれらの100分の1程度であり、ほとんどPLD活性は認められなかった。以上の結果は、「03-s108」の玄米ではPLDがタンパク質としても、また酵素活性としても欠失していることを示している。PLD欠失性の遺伝特性。「コシヒカリ」種子では"Tos17の挿入の有無/PLDタンパク質の有無"が"無/有"であるのに対して、「03-s108」種子では"有/無"であった。F2種子では、Tos17挿入の無:有、PLDタンパク質の有:無は共に3:1に分離した。更に、これら2形質に関しては無/有・無/無:有/有:有/無が9:3:3:1に分離したので、Tos17挿入およびPLDタンパク質無の特性は2つの独立な劣性遺伝子により支配されると推定される。つまり、Tos17の挿入とは無関係にPLDタンパク質の有無が決定されると考えられる。
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