発芽の季節性制御機構の解析:高温発芽阻害の生理的メカニズム 冬季一年草の種子発芽タイミングは高温発芽阻害によって決定され、高温発芽阻害には温度によるアブシジン酸(ABA)の生合成と感受性の調節が関与する。そこで、種子内でのABA生合成部位を特定するために、種子発芽研究のモデル材料であるレタスよりABA生合成の鍵酵素である9-シス-エポキシカロチノイドジオキシゲナーゼ(NCED)遺伝子5種類(LsNCED1-5)を単離し、農業生物資源研究所に滞在して発現解析を進めた。これまでのところ、水ストレス応答性のLsNCED3は種子の温度応答に関与しないことが明らかになった。しかし、LsNCEDは、種子内での発現量がノザン法で解析できないレベルであり、in situハイブリダイゼーションを行うことが困難であった。マイクロダイセクションなどの方法を検討する必要があると判断された。 開花と発芽の機会性制御機構の解析:未発芽種子バーナリゼーションと2次休眠誘導のトレードオフ 冬季の低温は未発芽種子バーナリゼーションによる開花の機会性および種子2次休眠による発芽の季節性という対極的な性質を誘導する。そこで、海外共同研究者のマイケル・フェナー博士(英国サウサンプトン大)と共同研究を進めて英国および日本に分布する冬季一年草17科63属130種187系統の種子を収集し、種子低温応答性と生活環との関係を種間比較した。その結果、冬の低温によって種子に2次休眠が誘導されるか未発芽種子バーナリゼーションが誘導されるかで、真性冬季一年草型と可変性冬季一年草型のどちらの生活環が発現するのかが決定することが明らかになった。この種子低温応答のしくみは、冬季一年草の生活環進化において極めて重要な要因だと考えられる。
|