本研究の目的は、土壌水分の異なる栽培様式の稲作に共通して問題となるイヌビエの種子発芽生態に重要な耐冠水性と耐乾燥性を研究期間2年の間にその2変種、ヒメタイヌビエとヒメイヌビエを供試して生理、分子生物学的に解析することにある。 本年度の実験においては、水田雑草であるヒメタイヌビエと畦、空き地、路傍など乾燥地の雑草であるヒメイヌビエの種子発芽における酸素要求性、嫌気と好気条件における種子の呼吸とアルコール発酵系の稼動を調べて次のような研究結果を得た。 (1)ヒメタイヌビエとヒメイヌビエは、種子発芽における酸素要求性が明瞭に異なり、前者は嫌気、好気条件下で発芽するのに対して後者の発芽には酸素が不可欠である。 (2)ヒメタイヌビエの種子は、嫌気、好気条件に置床されたとき解糖系の産物ピルビン酸からアセトアルデヒドを生産し、この大部分のアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素によってエタノールを生産する。しかし、一部のアセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素によって酢酸に変換されKrebs回路を回転させる。 (3)ヒメイヌビエの種子は、嫌気条件に置床されたときアルコール脱水素酵素活性を増加させるが、CO_2とエタノールの生産は極めて少なく、また、アセトアルデヒド脱水素酵素活性も増大しない。この理由については明らかできていない。 以上が本年度の研究実績概要である。次年度に実施するヒメタイヌビエとヒメイヌビエの種子発芽における分子生物学的研究における諸実験技術について現在予備実験中である。
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