研究概要 |
イヌビエ(Echinochloa crus-galli)の嫌気発芽性をもつ変種ヒメタイヌビエ(E.crus-galli var.formosensis)と嫌気発芽性をもたない変種ヒメイヌビエ(E.crus-galli var.praticola)の種子を供試材料として、嫌気発芽において特異的に発現する遺伝子をdifferential display法で検索した。すなわち、この2変種の種子を嫌気条件の発芽床に7日間置床して胚を摘出した。この胚からmRNAを抽出し、逆転写してcDNAを合成した。つぎに、RAPD primerを用いてdifferential displayを実施した。この方法で、嫌気発芽性をもつヒメタイヌビエ種子において特異的に発現する遺伝子を検索した結果、イネのVacuolar proton pyrophosphatase(V-PPase, H+-PPase)と極めて相同性の大きいcDNA断片が発見された。したがって、嫌気条件下に置床されたヒメタイヌビエ種子は、ミトコンドリアにおけるKrebs cycleや電子伝達系の酸化的リン酸化が機能しないためにH+-ATPaseによるATPが生産されない状態で解糖系やアルコール発酵が促進されPasteur効果の稼動すると考えられる。このとき、ATPの代わりに、Vacuolar proton pyrophosphataseが触媒するピロリン酸の加水分解によって生産されるエネルギーが解糖系促進の駆動力なる可能性が示唆された。しかし、その詳細は不明であり、また、この遺伝子発現についても様々な追試が必要がある。
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