ヒエ属イヌビエ種内で冠水感受性が顕著に異なる2変種ヒメタイヌビエとヒメイヌビエを供試して、(1)種子発芽における冠水抵抗性の生理、分子生物学的解析、(2)冠水発芽における呼吸代謝調節の解析を行った。 1.種子発芽における冠水抵抗性の生理、分子生物学的解析 冠水抵抗性のヒメタイヌビエ種子は、嫌気条件で解糖系やアルコール発酵が促進されPasteur効果の稼動によって発芽する。この嫌気条件下では、ミトコンドリアにおけるKrebs cycleや酸化的リン酸化が機能しないためにH^+-ATPaseによるATP生産に代わってH^+-PPaseによるproton pumpによってエネルギーを獲得することが示唆された。一方、冠水感受性のヒメイヌビエの種子は、好気条件では通常のミトコンドリアにおける好気呼吸系で呼吸するが、嫌気条件では充分なADH活性とNADHのredox chargeが存在するにも関わらずアルコール醗酵系が稼動しない。しかし、この理由は明らかにできなかった。 2.冠水発芽における呼吸代謝調節の解析 水田雑草タイヌビエ種子から発芽した幼植物は田面水中でその呼吸を嫌気呼吸系から好気呼吸系に転換させる。この機作は、田面水中で種子発芽した幼植物が嫌気的環境で子葉鞘を伸長させ、その先端が田水面中の酸素濃度の大きい水面表層に近づくと、ADH抑制物質が誘導され呼吸系がアルコール醗酵系から好気呼吸に転換することが明らかとなった。しかし、このADH抑制物質をカラムクロマトグラフィで精製してアミノ酸分析を試みようとしたが、精製には至らなかった。
|