研究概要 |
倒伏は、収量、品質並びにコンバインによる収穫効率の低下を引きおこすイネの栽培における最も深刻な障害である。良食味品種のコシヒカリは、他の品種に比べ倒伏が発生しやすく、直播きの導入を抑制する主要な要因となっている。倒伏耐性品種の育種に向けて、耐性を決定するメカニズムを明らかにすることが望まれている。特定の遺伝子座(QTL)を除いた染色体領域がコントロールと相同である準同質系統は、目的形質を決定する生理学的なメカニズムの解析に適した供試材料である。本研究では、倒伏耐性のQTLを導入した準同質系統を用いて、下部のバランス保持能力(押し倒し抵抗)の増強が、転び型倒伏耐性に及ぼす影響を解析する。本年度は、日本晴(日本型イネ)とカサラス(インド型イネ)間の染色体置換系統(NILs)から倒伏耐性のQTL(prl5)を持つ3系統(No.43,60,63)を選抜し、押し倒し抵抗値を指針として倒伏試験を行った。その結果、染色体部分置換系統において、倒伏耐性は日本晴の約2倍の値を示し、prl5が倒伏耐性のためのQTLとして作用することが確認された。また他の余分なカサラス由来の染色体断片が最も少なく、他の形質の変化が少ないと考えられるNo.63について茎の形態的、物理的特性及び成分の分析と生理学的解析を行った。その結果、下葉の老化の遅れが、稈の炭水化物再蓄積の増加を引き起こし、その結果稈の剛性が増加することで、倒伏耐性が向上すると考えられた。prl5の収量への影響は認められなかったことから、prl5は倒伏耐性の向上に向けて実用性が高いと考えられた。
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