倒伏は、収量、品質並びにコンバインによる収穫効率の低下を引きおこすイネの栽培における最も深刻な障害である。良食味品種のコシヒカリは、他の品種に比べ倒伏が発生しやすく、直播きの導入を抑制する主要な要因となっている。倒伏耐性品種の育種に向けて、耐性を決定するメカニズムを明らかにすることが望まれている。特定の遺伝子座(QTL)を除いた染色体領域がコントロールと相同である準同質系統は、目的形質を決定する生理学的なメカニズムの解析に適した供試材料である。茎径の大きさと倒伏耐性間に正の相関があることが報告されている。日本晴とカサラスの自殖後代系統を用いてイネの茎径に関与するQTL解析を行った。その結果、茎径に関与するQTLsを染色体1、7、8並びに12番に計4個見出した。日本晴準同質系統を用いて、見出したQTLが茎径引いては倒伏耐性に及ぼす影響を解析した。見出したQTLの中で、染色体8番に見出されたQTL(sdm8)は最も強い作用を持ち、sdm8を含む準同質系統において、茎径は1.2倍となった。しかし倒伏耐性の指標である押し倒し抵抗値に影響は見られなかった。sdm8と染色体1、7、12番に見出された4個のQTLsを含む準同質系統では、下部の茎径が1.6倍になり、茎の剛性はコントロール(日本晴)に比べ有意に増加した。押し倒し抵抗値はコントロールの2.5倍に増加していた。これらの結果から、茎径の増加により倒伏耐性を増加させるためには、複数のQTLsを集約し、茎径を1.6倍程度する必要があることが明らかになった。
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