研究概要 |
倒伏は、収量、品質並びにコンバインによる収穫効率の低下を引きおこすイネの栽培における最も深刻な障害である。良食味品種のコシヒカリは、他の品種に比べ倒伏が発生しやすく、直播きの導入を抑制する主要な要因となっている。昨年までの研究で、「下位部の支持力を高めること」が耐倒伏性向上に向けた新たなターゲットであることを明らかにし、日本晴とカサラス間のBILsを用いて下位部の支持力を高めるQTL(pr15)を特定した。QTLは検出に用いた植物材料に規定される。そのため、日本晴以外のコシヒカリ等の品種においてpr15が作用するかどうか明らかではなかった。コシヒカリの遺伝的背景にpr15を含むカサラス由来の染色体断片を有する染色体置換系統は,下位部の支持力がコシヒカリの1.7倍に、個体の耐倒伏性の指標である押し倒し抵抗値は2.4倍に増加し、短稈で耐倒伏性品種であるキヌヒカリよりさらに優れた耐性を示した。茨城県つくば市にある農業生物資源研究所の圃場で栽培してみると、台風の通過により登熟がほぼ終了した出穂後27日(移植後92日)にコシヒカリの大半は倒伏したが、染色体置換系統では植物体上位部の稈にたわみが見られるもののほとんど倒れていなかった。これらの結果から、pr15が品種を超えて広く機能することが明らかになった。また、草丈の異なる9品種を用いて下位部の支持力と他の形質間の相関を解析した。草丈、地上部重と下位部の支持力間には相関が見られなかった。一方で茎の密度と高い正の相関が見られた。これらの結果から、茎の密度が下位部の支持力ひいては耐倒伏性向上に向けたターゲットになることが示唆された。
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