研究概要 |
前年度(平成16〜17年)に,Fusarium graminearum (Gibberella zeae)の周辺の種について蛍光顕微鏡による染色体観察とパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による核型解析を行い,F.graminearumグループのn=4の核型がn【greater than or equal】12→n=8→n=5→n=4の融合過程を経て形成されたとする仮説を立てた。そこで,本年度はその仮説を検証するために,まず核型解析を実施した9種19菌株を用いて分子系統解析を実施した。解析にはtranslation elongation factor-1αとhistone H3遺伝子の部分領域をPCRで増幅して得た塩基配列(それぞれ,約700bpと500bp)を用いた。その結果,染色体融合は当初の仮説とは異なり,n【greater than or equal】12→n=8とn【greater than or equal】12→n=5→n=4が独立して起こったと推定するのが妥当であることを示唆する分子系統樹を得た。次に,染色体融合の証明実験として,n【greater than or equal】12のグループに属するF.proliferatumの染色体DNAをプローブに用いてF.graminearumの体細胞中期染色体に対する蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)の染色体ペインティングを行った。プローブ作製には,従来法であるDOP-PCR法と最近開発されたmultiple displacement amplification (MDA)法を試み,MDA法がPFGEのバンドから切り出した染色体DNAを効率的に増幅するのに優れていることを見出した。これまでにF.proliferatumの3本の染色体をプローブ化してペインティング解析を実施し,B染色体と思われる約0.7Mb染色体に関してはその全体がF.graminearumの第4染色体端部領域に対応することが判明した。この端部領域はrDNAを含むと推定され,0.7Mb染色体の起原がrDNAであることが示唆された。F.proliferatumの他の2本の染色体についてはF.graminearumの特定染色体との対応関係を示す結果は得られなかった。以上の実験に加え,マイコトキシンのtrichothecene合成遺伝子クラスターと染色体進化の関連性についてFISH解析を実施すべく,約10kbのプローブの作製をlong-PCRにより行った。糸状菌のゲノムについて核型進化の観点から解析した例はこれまでになく,本研究が世界で初めてである。
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