研究課題
基盤研究(C)
本研究の調査地である標津川集水域では、農耕地における純窒素投入量の約25%は土壌中の硝化作用により土壌に保持をうけない硝酸態窒素に変換され、脱窒や植物による吸収を受けずに河川に流出する。この硝酸態窒素は河川や沿岸域の富栄養化を引き起こし、環境の悪化と時には水産業への悪影響をもたらす。そこで農地では、硝酸態窒素の流出を最小限に抑えるための窒素管理が必要となる。農地での窒素管理において重要な事に、河川に流れ出しにくい場所に廃棄窒素を保管すること、土壌の脱窒反応による浄化を最大限に利用することが考えられる。このためには、どの位置に置かれた窒素が最大限の浄化を受けるかを定量的に評価する必要がある。しかし、実測による評価は不可能であるため、モデルによる推定が必要となる。本研究では、脱窒による浄化能を地図上で表現する事を最終目標にしたモデルの開発である。このモデルでは、地下水層を移動する硝酸態窒素が一次反応式(C_t=C_0exp[-kt])に従って脱窒を受けると仮定し、移動速度は始点から最大勾配に沿った河川への距離(distance)と、その勾配(slope)から計算したdistance/slopeに比例すると仮定した。また、現地踏査から河川勾配と硝酸態窒素の負の関係を見出し、硝酸態窒素の流出率が河川勾配の逆数に比例して上昇すると仮定した。このモデルは河川の硝酸態窒素の実測値との適合が極めてよい事が分かった。モデルはNO3濃度の変動の94%を説明した。その結果、調査地の標津川集水域において、純窒素投入量の数%から最大50%近くの硝酸態窒素が河川に流出する前に脱窒によって除去されるという推定結果を得た。しかし、モデル自体の欠点も明らかになってきた。土台にしたモデルは半経験的な理論を土台にしている。そこでこの欠点を克服するために、河川勾配の項に対する理論付けを試みた。具体的には、水理学や河川地理学の公式(マニングの式やLeopoldの経験則)から流出率が河川勾配の逆数に比例する関係を得ることを試みたが、河川勾配の平方根を説明するにとどまった。今後、残りの平方根を説明する理論的作業が必要である。
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日本土壌肥料学会誌 75
ページ: 283-290
Japanese Journal of Soil Science and Plant Nutrition (in Japanese with English summary) 75
In (Hatano and Inubushi (eds.)) Prediction of Environmental Load (Hatano and Inubushi (eds.))(in Japanese)