硝酸を窒素源として水耕栽培したイネの上位展開葉を切り取り、チャンバー中において大気気流中での一酸化窒素発生量を、化学発光法により測定した。野生型イネ(日本晴)の葉からの一酸化窒素発生は、暗条件では非常に低いレベルであったが、葉を明条件に置くことにより発生の増加が認められた。また、明条件での葉からの一酸化窒素発生は、再度暗条件にすることにより速やかに低下した。また、明条件から暗条件への移行の過程で、一時的に大きな一酸化窒素発生の増加が認められた。この明条件における一酸化窒素の発生は、アンモニアを窒素源として生育させたイネの葉ではほとんど認められなかった。これらのことから、明条件におけるイネの葉からの一酸化窒素発生は、吸収した硝酸に由来するものと考えられた。一方、ヘモグロビン遺伝子(ORYsa GLB1a)を過剰発現させた形質転換イネの葉からの一酸化窒素発生量は、明条件においても暗条件と同等の低いレベルであった。 硝酸を窒素源として栽培した野生型イネの葉からの一酸化窒素発生量は、チャンバー内を窒素気流に置換することにより大きく増加し、明条件・大気気流中における発生量の50〜100倍程度に達した。この嫌気的条件における大きな一酸化窒素の発生は、アンモニアを窒素源として生育させたイネの葉では認められなかった。そのため、嫌気的条件で発生する一酸化窒素も、好気的条件と同様に吸収した硝酸に由来するものと推定された。嫌気的条件においては、ヘモグロビンを過剰発現させた形質転換イネの葉においても、野生型イネと同等の一酸化窒素発生が認められた。これらのことから、ヘモグロビンは好気的な条件において一酸化窒素の消去作用を示すが、その作用は嫌気的な条件では機能しないものと推定された。
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