これまでに、イネ培養細胞において2つのヘモグロビン遺伝子が硝酸により速やかに誘導され、そのパターンは硝酸還元酵素遺伝子の誘導パターンと類似していることを明らかにした。また、硝酸還元酵素欠損ミュータントでは、ヘモグロビン遺伝子の発現も抑制されていることから、硝酸還元酵素遺伝子とヘモグロビン遺伝子は同様の機構により誘導されているものと推定した。本年度は、ヘモグロビン遺伝子の発現調節機構をさらに検討するとともに、硝酸還元酵素活性におよぼすヘモグロビンの影響について調査を行った。 イネ培養細胞では、硝酸還元酵素遺伝子の発現は硝酸の代謝産物であるグルタミンやアスパラギンにより顕著に抑制された。一方、ヘモグロビン遺伝子の発現はこれらのアミドでは抑制されなかった。このことから、ヘモグロビンと硝酸還元酵素は、硝酸による誘導機構は類似しているものの、硝酸同化時における遺伝子発現の調節機構は異なるものと推定された。 イネ野生型細胞とヘモグロビンの発現が増加した変異体では、硝酸同化時における硝酸還元酵素遺伝子の発現量は、ほぼ同等であった。一方、細胞抽出液中の硝酸還元酵素活性は、野生型細胞にくらべて変異株で大きく低下していた。変異株の細胞抽出液に含まれるタンパク質を分画し、硝酸還元酵素タンパクとヘモグロビンタンパクを分離したところ、粗抽出液に比べて硝酸還元酵素活性が大きく増加した。このことから、ヘモグロビンは硝酸還元酵素タンパクと相互作用し、酵素活性を調節している可能性が考えられた。
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