研究概要 |
環境変動に対する細菌のゲノム再編成を伴う適応進化機構は生物学上の大きな興味のひとつである。本研究では、環境常在細菌の迅速な新規能力獲得機構を明らかにするために、高度に難分解性の人工化合物である有機塩素系農薬gamma-hexachlorocyclohexane(HCH)を分解資化するグラム陰性細菌Sphingobium japonicum(Sphingomonas pucimobilisより改名)UT26株のゲノムの構成原理、およびゲノム動態の機構の解明を目指した。 本研究において、バルスフィールドゲル電気泳動法およびサザン解析などを用いて(1)UT26株のゲノムが、3.6Mbと660kbのrRNA遺伝子が存在する2種の染色体(Chr.I, Chr.IIと命名)と、185kbのプラスミド(pCHQ1と命名)、および約30kbと5kbのプラスミドから構成されること、(2)HCH分解代謝に必要な遺伝子群linA, linB, linCはChr.Iに、linREDオペロンはpCHQ1に、linFはChr.IIにそれぞれ存在すること、を明らかにした。さらに、(3)linREDオペロンを担うpCHQ1が少なくとも近縁種に接合伝達可能であることを明らかにした。一方、(4)UT26株はゲノムの再編成に関与している可能性もある内在性の転移因子ISsp1を保持していた。また、(5)UT26株がHCHを分解代謝する過程で生じるdead-end産物の2,5-dichlorophenolが細胞毒性を示すことを明らかにすると共に、(6)UT26株がHCHを単一炭素源として生育するのに必須なABCトランスポーター遺伝子を同定した。すなわち、UT26株のHCH分解資化能獲得を論じる際には、これら直接の分解酵素以外の遺伝子についても考慮しなければならないことを明らかにした。
|