研究概要 |
ハイドロフォービンは空気中に分生子頭や子実体を伸長する糸状菌・担子菌類の細胞表層に普遍的に存在して、気中菌糸や胞子・分生子の表層に撥水性を与えるタンパク質である。ハイドロフォービンは細胞外に分泌された後、細胞表層に自己集合して外側に疎水性面が露出した両親媒性の層を形成すると考えられている。一方、微生物の細胞表層に機能性ペプチドを固定化して発現させることにより特定の性質を付与する「細胞表層工学」は主に酵母を宿主として研究・開発が進み、各種の酵素・抗原等の発現が報告されている。 麹菌(Aspergillus oryzae)は、我が国では古くから発酵食品の醸造に用いられてきた糸状菌であり、高いタンパク質生産能を有すると供に、人体に対する安全性が保証された微生物である。近年、麹菌をにおける宿主ベクター系が開発され、外来タンパク質生産の宿主としての利用も期待されている。 麹菌のゲノム情報を利用して、ハイドロフォービンをコードすると考えられる遺伝子を5つ(hypA, B, C, D, E)単離している。そのうち、hypA遺伝子に蛍光タンパク質GFPをコードする遺伝子を結合したhypA-gfp融合遺伝子を構築し、麹菌に導入してhypA遺伝子自身のプロモーター制御下で発現させたところ、HypA-GFP融合タンパク質が固体培養特異的に発現し、分生子表層に重合体を形成することを観察した。重合体は極めて安定であり、SDS存在下の煮沸によっても解離することはなかった。これより、ハイドロフォービンが麹菌を宿主として、機能性ペプチドを細胞表層に発現させる「細胞表層アンカー」に適した性質を有することが示すことができた。現在は、HypAと各種の機能性ペプチド・酵素との融合タンパク質を麹菌に発現させることにより、ハイドロフォービンを細胞表層アンカーとして利用する麹菌の細胞表層工学システムを構築と適用について解析を行っている。
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