放線菌Streptomyces griseusの二次代謝・形態分化は微生物ホルモンA-ファクターによって誘導される。黄色色素グリキサゾン(GX)はA-ファクターによって生産誘導される二次代謝産物の1つであるが、その生産は低リン酸培地でのみ観察される。これまでの研究により、A-ファクターおよびリン酸飢餓シグナルはGX生合成遺伝子群中の制御遺伝子griRの転写活性化を引き起こすこと、およびGriRは他のGX生合成遺伝子群の転写を活性化することを示す結果が得られていた。本研究においては、まず、GriRを大腸菌で生産させることに成功し、GriRがgriCおよびgriJプロモーターに直接結合することをin vitroで示した。一方、GX非生産変異株(M31株)の変異遺伝子griZをクローニングした。GX生合成遺伝子群とはかけ離れた遺伝子座に存在するgriZは、TetR型のDNA結合ドメインを有するタンパク質をコードしており、転写因子であると考えられる。griZ破壊株ではgriRの転写活性化がおこらず、GXは生産されなかった。さらに、griZ破壊株においてgriRを強制発現させたところ、GXが生産された。これらの結果より、GriZはgriRの転写活性化を通してGX生合成に関与していることが明らかになった。大腸菌で生産させたGriZを用いた解析により、GriZはgriR上流領域へは結合しないことが示されたため、GriZは間接的にgriRの転写を活性化していると考えられる。一方、GriZはgriZプロモーター付近に結合し、自身の遺伝子の転写を抑制していることが示された。GriZの制御下にあり、griRの転写活性化に関与する遺伝子を取得するとともに、A-ファクターおよびリン酸飢餓シグナルとGriZとの関連を明らかにすることが今後の課題である。
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