我々は以前、分泌型ホスホリパーゼA_2(sPLA_2)の持つPC12細胞に対する神経突起伸長誘導様作用はリゾリン脂質であるLPCの産生によるものであることを見出していた。またLPCと類似のリゾリン脂質であるSPCも同様の作用を示すことを認めていた。本年度はSPCの作用について解析を進めた。Ca^<2+>-free培地ではSPCによる突起伸長が抑制され、ニカルジピンもSPCによる突起伸長を抑制した。従ってSPCによる突起伸長はL型カルシウムチャネルを介したカルシウム流入を必要とすると考えられる。各種処理でのF-アクチンの分布を観察したところ、LPC、sPLA_2では細胞膜に沿った蛍光が観察された。NGF処理ではgrowth coneが非常に強く染色され、アクチン重合が突起部分の先端に蓄積している様子が確認された。SPC処理では強い特徴はみられなかったが、LPC・sPLA_2処理とNGF処理との中間の形態が観察された。 一方、麹菌sPLA_2の解析も行った。麹菌はそのゲノム配列中に2つのsPLA_2遺伝子spaA、spaBを持つ。組換えタンパク質を用いて活性測定を行った結果、SpaAは10mM Ca^<2+>、pH4-5、SpaBは1mM Ca^<2+>、pH7-8に至適条件を持つことがわかった。それぞれに対する抗体を作製し、局在解析を行ったところ、SpaAは大部分が培地中に分泌されるのに対し、SpaBは菌体画分に存在することがわかった。間接蛍光抗体法による観察では、SpaAは細胞壁に局在したが、SpaBは小胞体様の網目状構造、またはlipid bodyに似た粒状の構造体に局在することが分かった。以上の結果から、SpaA、SpaBは単に重複して存在するのではなく、独立した機能を持つことが強く示唆された。
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