研究概要 |
近年の化学工業ではグリーンケミストリーの達成を目指して、化成品・医薬品などの合成に生体触媒を積極的に利用する研究が盛んとなっている。本研究では、機能性ポリマー・液晶・医薬品・農薬合成の原料として有用な芳香族カルボン酸の合成法を開発するために、広範な微生物を対象として含窒素複素環化合物やフェノール・ナフトール誘導体のカルボキシル化反応を探索し、物質変換バイオプロセスに応用することを目指している。脱炭酸酵素の中には逆反応でカルボキシル化を触媒する酵素群が存在することを最近明らかににしてきており、本研究では、この可逆的脱炭酸酵素群の反応・分子特性を解明するとともに物質生産系への応用を検討した。 平成16年度においては2,6-ジヒドロキシ安息香酸脱炭酸酵素をモデルとしてとりあげた。本酵素はAgrobacterium属細菌にのみ存在が判明していたが、他の微生物株にも酵素活性を見出した。精製酵素を調製して反応特性を検討した結果、炭酸固定機能をも有する脱炭酸酵素であることが判明した。酵素遺伝子をクローニングし、一次構造を比較解析した結果、他の脱炭酸酵素との高い相同性は認められなかった。精製酵素を用いて炭酸固定機能を評価した結果、数種の芳香族化合物に位置選択的にカルボキシル基を導入できることが判明し、反応生成物の構造決定を行った。炭酸固定機能を活用した物質変換系を構築するために、反応条件を最適化した結果、1,3-ジヒドロキシベンゼンから2,6-ジヒドロキシ安息香酸が220g/Lという高濃度で生産が可能であることを示した。 一方で、炭酸固定機能を持つ新たな脱炭酸酵素の探索を進め、酵母・カビなどの真核微生物に特異的に存在する可逆的脱炭酸酵素を見出した。平成17年度において、この脱炭酸酵素の反応特性および物質変換系への適用性の評価を進める。
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