研究概要 |
MON-1株は、中等度水銀耐性鉄酸化細菌A.ferrooxidans SUG2-2株から誘導された高度水銀耐性鉄酸化細菌で、現在最も高い2価鉄依存性の水銀気化活性を持っている。これまでSUG2-2株のcytochrome c oxidaseが、2価鉄を電子供与体にして2価の水銀(Hg^<2+>)を金属水銀(Hg^0)に還元できることを示してきた。MON-1株のcytochrome c oxidaseは、SUG2-2株に比較して更に水銀気化活性が高くなっていることが予想された。鉄酸化細菌で見出された新規水銀気化システムが水銀耐性鉄細菌の確かな生物機能であることを確証するために、MON-1株からcytochrome c oxidaseを精製し、精製酵素を用いて水銀気化のメカニズムを解析した。また、二価鉄の代わりにcytochrome c oxidaseの電子供与体として知られている2,3,5,6-tetramethyl-p-phenylenediamine(TMPD)を電子供与体にして水銀気化の有無を検討した。MON-1株洗浄細胞によるTMPD酸化の最適pHはpH3.5、活性は菌体濃度及び水銀濃度に依存していた。TMPDの酸化に伴って水銀の気化が起り、活性はNaCNで完全に阻害された。水銀に対してのK血値は0.14μMであった。興味深いことに好気的条件下においても、嫌気的条件下で観察された気化活性の約25%が観察された。 細胞膜のcytochrome c oxidase活性は、SUG2-2株が0.41mU/mgであったのに対してMON-1株は1.49mU/mgであった。膜のcytochrome c oxidase活性は、Hg^<2+>によって約3,4倍活性化された。MON-1株の細胞膜画分を1.5%のオクチルグルコシドで可溶化後、pH4.5で透析沈殿し、CM-Tbyopearl 650Mカラム分画を2回繰り返すことによってcytochrome c oxidaseを高度に精製した。最終精製標品はTMPDを電子供与体にして水銀を気化する活性を持っていた(44nmol Hg^0 volatilized/mg/h)。この活性は1mMのNaCNによって完全に阻害された。TMPDを本来の電子供与体である2価鉄に代えた場合の水銀気化活性は19.2nmol/h/mg proteinであった。同様の方法で電気泳動的に単一に精製した、SUG2-2株のcytochrome c oxidaseは、2価鉄を電子供与体としたとき14.8 nmol Hg^0 volatilized/h/mg proteinの水銀気化活性を示した。以上、高度水銀耐性鉄酸化細菌A.ferrooxidans MON-1株の水銀気化にcytochrome c oxidaseが関与していること、低濃度において無機水銀が電子受容体として利用できることを明らかにした。
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